プラかごの後差し模様(ステッチ)の体系と進化

先に「ピクセル絵」として、短いバンドをドットのように差し込み、絵を描く手法を紹介しました。しかし、実際のプラかご作りにおいて、より広く使われているのは、長いバンドを側面全体に通して幾何学的な模様を描き出す技法です。

本サイトでは、この技法を「後差し模様」ないしは「ステッチ」と呼び、順を追ってその組み合わせを見ていきたいと思います。それに先立ち、なぜこの技法が生まれたのか、どのような仕組みで成り立っているのか、その全体像を整理します。

1. 隙間から表面へ:PPバンド独自の進化

竹細工や籐細工における伝統的な「差しひも(透かし編み装飾)」は、六つ目編みや四つ目編みなどの「編み目のすき間(目)」にひもを通す技法でした。

一方、PPバンドで作るプラかご(主に平編みベース)では、目ではなくバンドの表面に重ねて差し込みます。これは、PPバンドという素材が「薄く、滑りやすい」からこそ可能になった、独自の進化形と言えます。紙バンドのように編み目自体を変えることが難しい代わりに、薄いバンドを層のように重ねることで装飾性を高める道を選んだのです。

2. 構造のレベル分類:支点のルール

滑りやすいバンドを固定するためには、単に重ねるのではなく、既にあるバンドを「支点」として利用する必要があります。この「何に留めるか(依存関係)」によって、模様の構造は以下のレベルに分類できます。

  • レベル0(フレーム): ベースとなる平編みのかご本体。
  • レベル1(直交・シフト積層): フレーム(レベル0)を支点として差し込む層。
    • 基本: 水平・垂直方向(0度・90度)に重ねる。
    • 変則シフト: 「縦3マス・横1マス」のように座標をずらして通すことで、72度・108度といった急角度を作り出す技法もこれに含まれます。
    • ループ(鱗状): 持ち手の取り付け技法から派生したと考えられる手法。フレームのバンドに対して「巻き付ける(ループする)」ことで立体化し、その連続で鱗(うろこ)のような模様を作ります。斜めに進みますが、足場はあくまでフレーム(Lv.0)であるため、構造上はレベル1の亜種に分類されます。
    • 「ピクセル絵」も構造的にはこのレベル1に属します。
  • レベル2(斜交積層): レベル1のバンドを支点として差し込む層。
    • レベル1でできた浮きや交差を利用することで、45度・135度方向への配置が可能になります。レベル1の足場がないと成立しないため、工程順序は不可逆です。
  • レベル3以降: レベル2以上のバンドを支点として、さらに複合的に編み込む層。

3. 文献に見る技法の変遷

2010年代前半からの関連書籍を紐解くと、この「レベル」が段階的に活用され、補強目的から装飾表現へと進化していった過程が見て取れます。

黎明期:補強としてのレベル1 最初期の文献である高宮紀子の著書[1][2](2013-2014年)では、全60作品中、バンドを重ねる技法はわずか2点のみです。

  • 文献1(p.75, 90): 全面に同方向のバンドを重ねる作例が見られますが、これは模様というより、薄いバンドの強度を補うための「二重化(補強)」としての意味合いが強く、レベル1の初期段階と言えます。

過渡期:装飾表現の開拓とレベル2の登場 2014年頃、紙バンド・PPバンド手芸の第一人者として現在も活躍する古木明美の著書が登場することで、表現の幅が一気に広がります。古木明美の著書[3](2014年)では、紙バンド手芸で培われたデザイン感覚が持ち込まれ、以下の重要な技法が確認できます。

  • ピクセル技法(風車模様): 田の字の4ピクセルに三角を作る「風車模様」が複数の作品で使われています。これは短いバンドで面を埋める技法であり、構造的にはレベル1ですが、幾何学的な絵柄を描くという装飾的な意図が明確です。
  • レベル2の実践: 同書(p.37)の「赤×白ステッチのバスケット」では、水平に通した赤バンド(レベル1)の上から、白の細幅バンドを45度・135度で交差(レベル2)させる構成が登場します。
    • 「レベル1を支点としてレベル2を通す」という積層構造が、この時期すでに作品として完成されていたことは特筆すべき点です。

発展期:機能からの派生と数学的探求 翌2015年、富田淳子の著書[4]では、ベトナム現地の技法を通じて、さらなるバリエーションが紹介されます。

  • 機能の装飾化(ループ/鱗模様): 作品(23, 30, 31)に見られる、バンドをループさせながら斜めに進む模様です。これは元来「持ち手をカゴ本体に巻き付けて固定する技法」を、装飾として側面全体に応用したと考えられます(レベル1の亜種)。
  • 幾何学的・数学的応用: 「幾何学模様のバッグ」(p.66)では、赤のフレーム(Lv.0)に白の水平バンド(Lv.1)と白の斜めクロス(Lv.2)を加え、さらにミントグリーンのバンドを72度・108度に通しています。
    • この72度・108度は、「縦3マス・横1マス」の比率でフレーム(Lv.0)に通していくレベル1の応用技法(座標シフト)です。1/2幅という細さを活かし、グリッドの制約を超えようとした当時の探求の深さがうかがえます。

現在:技法の定着 その後、2021年頃からの再ブーム以降、素材の多様化と共にこれらの技法が統合・洗練されました。「花模様」などの本来複雑なステッチも、これらの先駆的な試行錯誤(レベル1の多様化とレベル2の確立)を経て、現在の標準的な技法として定着したと言えるでしょう。


参考文献

  • [1] 高宮紀子 (2013). 『PPバンドで編む 毎日使えるプラかご』 誠文堂新光社.
  • [2] 高宮紀子 (2014). 『PPバンドで編む オシャレなプラかご』 誠文堂新光社.
  • [3] 古木明美 (2014). 『PPバンドで作る かわいいプラかごとバッグ』 河出書房新社.
  • [4] 富田淳子 (2015). 『PPバンドで作るベトナムのプラカゴ』 文化出版局.

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